これは描く側の特殊な目かもしれないけど、描き下ろしでないことはすぐにわかりました。本来ファン向け素材だったものが、公共性の高いところに使いまわしされて話題になるケースがちょいあります。その場合、あまりよくない方向で話題になる作品は気の毒だなと思う。*1
観測範囲では、「いかがなものかとは思うけれど、ポスターを取り下げる必要は無い」とのバランスが多く見られた気がしています。
私も取り下げまではまったく思いません。あきらかに期間限定で、献血時にしか行かないオープンスペースで、こんな明るいデザインのポスターですよ。献血ボイコットも、献血ってことの公共性考えたらあほかと思いますね…。
個人的に、「これはイヤだ」とただツイートしたりするのと、電凸などは少し違うと思っており。前者は感想の範囲ですが、後者は圧力になりうるので。
人によって問題としてる箇所が違うのがアレですが、おそらく大多数は胸の描写と思います。胸の描写が程度問題だというのであれば、抗議も程度問題で考えられたっていいじゃないですか。オタクvsフェミみたいのは、近頃どちらも「程度問題」から遠心分離してる向きがあって、これ以上の加熱が恐ろしいです。
いわゆる「乳袋(チチブクロ)」の話
以下はポスターを離れた一般論になります。
乳袋というものを「胸の大きな人がタイトな服を着たときに出るバストのシルエット」程度に考えてる人がある様子で、違うよ誰か書いてないのかよ! って思ったらpixiv百科事典に項目があった。
乳袋とは、普通の材質の服を着ているはずなのにボディスーツのように布地がおっぱいに貼り着いて谷間や下乳、乳房全体の形が露わになっている様。転じて「まるで服におっぱいの形をした袋がついているようだ」という意味で作られた言葉である。
(略)
結論から言ってしまうが、あまりに現実的に描いてしまうと見栄えが悪くなるからである。
(略)
現実の衣類は乳房に限らず、漫画的な描写に反し、肌に密着せず、たわみ、膨らんでいる。特に乳房の下に布は張り付かないため、乳頭部分から真下に布地が下がり、胴回りが膨らんで胴体が太いように錯覚させてしまう。
イヤこれですよ。現実にはそうならないから、コミック系イラストの絵描き同士でわざわざそう名付けた言葉なんですよ。フィクションの描写が必ず現実の物理やその他ルールに従ってなければいけないわけないですから。「正し」くはなくても、強さや勢いなど、なんらかの効果が得られれば漫画表現はOKなんです。
現実の女性の体型や市販の服で「乳袋」になることはありませんし、現実の女性に対して使っていい言葉ではないです。逆にいえば、乳袋は安易に再現できるような、そんな生ぬるいものじゃあないんです。
…正直、女性の胸って線画では描きづらいんですよ…。「正しく」描こうとすると少なくとも手数がかかります。
女性にとっては、毎日みる自分の身体であり、銭湯に行けば他人の裸も目にします。服を着るんでも、きれいに見せるためにしばしば苦心する箇所ですから、女性からみて「ω」みたいなの、違和感ある描き方なのは疑いがないでしょう。
ともかく、アイドルグラビアにしろファッション誌にしろ、身体ってそれだけで平面にしてキマるものではなく、魅力的に見せるために物理的な工夫がされていることはよく知られています。ポージング、ライティング、衣装への仕込み、ときにはレタッチや整形すらあるでしょう。
女性は平均的な脂肪のつきかたもなんとなく把握してますので、それすっ飛ばしたら「無いとは言わないが…おったまげたァ!」となる向きがあることは分かってほしいです。
このへん、じつは商業では「ちゃんと被服構造やポージング等でセクシーさは演出しよう」というのが主流になりつつあると思います。できれば皆ちゃんと描きたいんですよ…。
そして、普段から堅めのクライアントワークをする人たちはそのへんぜったいわかってますから、描き下ろしにおいて「ほっとくとセクシズムがあふれてしまう!」みたいな心配はご無用ですorz 『宇崎ちゃん~』についても、ポスターのための描き下ろしでなかったことだけは考慮に入れておいてください。
描きにくい部位であることは覚えておいてくださるとありがたいです。誇張みたいな意識がなくとも、絵的に不器用がゆえにそう描いてしまう人はあります。
また、バービー人形問題などにみられるような、“女性のプロポーションの画一化”についても、正直、「中途半端な体型」って一番画力を要しますし、漫画においてはある程度“画一化”しないとやってらんないほど量を描かなくてはいけないという面はあります。
男性としても、「(自分はそうじゃないのに)男性表現がイケメンやマッチョに画一化されている…。ならば女性のそれも問題ないのでは…?」という意識があるのかもしれません。
だとすると、両者申し訳ないのですが、死ぬほど描かなくちゃいけないんです日本漫画はorz 若干、作家の労働問題が関わってくる、かもしれません。
商業作品は版元の意向が関わってくる
傍目からはまったくと言っていいほど判別つかないので取扱い注意な話ですが、「わざわざ」そういうディレクション入れてくる人って少なからずいて、作家さんが乗り気ならばいいんですが、じつは乗り気でないケースもしばしばです。名前もろくに公にならない人が指示してる場合があるんです。
それが、言ってくる本人の性癖だと言うならばヨッシャ叶えたるわ! とならんでもないですが、マーケティング()的な観点から言われるとほんとムカつくんですよね。
「ちょっとエッチな」じゃあないんですよ、不要だからやらないんだよ。やるならやってやるから地獄までついてこいよ! と内心イラついたことが過去数回ありました。こっちは戯画化ってことの魅力も危険性も重々承知ですから、自分だけいい格好で済ませたい向きには腹立ちます。
以前は「編集など逮捕されてからがスタートライン💪」と、作家とともに腹をキメてくれる編集さんいたんですけど。少なくとも私にとって、優秀な編集さんってだいたい変態だし、自分の変態性を隠さないです。
だもんで、作家さんやお客さんに対して言いたいことはあんまないんですけど、版元に対しては多少ある。
自分たちのやってることがポルノ「も」含むんだ、ということをいい加減認めて、森林原人さん*2やパラダイスTV*3あたりのように、現実問題についてチャリティなり啓蒙活動なり、理解されようという活動してったほうがいいですよ。
それは、女性問題に限らないかもしれません。かなまら祭りだって無条件に続いてきたわけじゃないです。
おそらくそれでも突っ込まれるでしょうが、やらないよりはずっと味方が増えると思う。あんま知られたくないことですが、映像やゲームと違って、日本の出版はレーティング機構ないんですよ…。*4なので、あれもこれも出自はアダルト、ってそれはそうなんですけど、映像やゲームを例としてあげられると、業界としての努力が違うんじゃないの…? とは個人的に思います。
エロ漫画も含めて、本業アダルトの人たちは「何やってんだ」と思っておられるんではないんですかね…。
オタクは女性蔑視なのか
現代では「萌え」の定義は必ずしもセクシャルでないかと思いますが、仮に萌えが性的だとしても、オタクカルチャーど真ん中の知人と飲みに行ってセクハラとかまずないです。体感、むしろ萌え絵を馬鹿にするような向きのほうが実際の女性に対して無礼だったりしませんかね。
これもこれで偏見かもしれませんが、無駄な場面で女性を「脱がして」きたのも、弱者とみるやイジりという名で小馬鹿にしてきたのも、両方、主成分はオタク的なカテゴリ以外の人物像だと、私は思うんですけどね。
秋葉原行って「ヒュウ~~巨乳ゥ~~!」とか言われること無い…なくない???
一度どこかが対談企画でもしたらいいと思う。
海外は正直もっと苛烈
海外でもフェミvsオタクみたいの、ヒートアップしてます。男も強いし、女も強いので、そりゃもう売り言葉に買い言葉状態です。
ここでちょっと知ってほしいのは、海外でも日本のコンテンツに救いを見出してる人があるんですよ。
詳しくは書けませんが、海外の男性で、まあルッキズムに関してつらい思いをしてきて、すごく人生を悲観していて、pixivまでチェックしてる人があったんです。
たまたま身の上話を聞くことになったんですが、その人、私が女性作家だと知る前から普通に紳士的で、「部屋は日本の漫画でいっぱいなんだよ」と話してくれました。あげてくれたタイトルも“真っ当な”少年漫画ばかりでした。おそらくセクシャルなことに関しては奥手なかたではないかなと思いますが、まあ性的に楽しむこともあるでしょう。
頼むから、そういう人たちの拠り所をなくさないでくれよ! と切に願います。
日本漫画に強みがあるとしたらその雑多性です。
セクシャルなものばかりでないことは、少し手広く読んでる人なら皆さん思ってると思います。コミックのルッキズムは、私は海外のほうが厳しいと思います。
だからこそ、日本の版元には業界としてリードしてほしいし、あるいは作家側も「そうはしたくない」というところで頑張る必要があるかもしれません。
私は漫画でいろんな苦難によりそって、昇華できれば、と真面目に思ってますし、いろいろ考えると、これ以上は加熱してほしくないです。